時事通信  2010年5月31日
特集・地域再生とNPO

商店街活性化狙う=資金面で課題も-「新しい公共」の実情

 鳩山政権が打ち出した「新しい公共」。その大きな一翼を担うのが特定非営利活動法人(NPO法人)だ。行政がこれまで担ってきたサービスを移して行政を スリム化したり、行政では手薄になりがちな公的分野をカバーしたりすることが期待されている。実際、国内では数多くのNPO法人が街づくりや介護分野など で活動している。しかし、多くは資金面で課題を抱えており、政府税制調査会が打ち出した寄付税制の改正などがどこまで寄与するかは未知数。そんな中で、商 店街の活性化に取り組む青森市のNPO法人の実情を追った。

◇高校生にミニFM局拠点提供
 4月下旬、青森市内の商店街「ニコニコ通り」の一角にあるビルの2階で、地元の3人の高校3年生が、半径200メートル程度に電波が届く「ミニFM局」 を開設する準備をしていた。「ここに機材を集中させて、その向かいにパーソナリティーがゲストとかと向かい合う配置はどうかな」「そうだね。そうしよう か」。生徒らは真剣な表情で、ミキサーやパソコンなどの機材を置き、配線をした。
 この3人は「クリエイト」という任意団体を設立して活動中だ。ミニFM局は以前から別の場所でも開設しており、地元のグルメ情報などを掲載したフリーペーパーも発行している。
 代表の久保田圭祐君(17)は、小学校時代からパソコンに夢中になり、インターネットで自前のラジオ放送を流すほどだった。転機は中学2年の時。友人の 父親が青森県庁の職員で、久保田君の趣味を聞いて、「きっと街おこしに使えるんじゃないかな。もっと研究してみて」とアドバイスしてくれたのだった。
 そんな久保田君らに場所を提供したのが地元のNPO法人である「ソーシャル・キャピタル・サービス青森(SCS青森)」だった。以前から商店街活性化に取り組んでいたSCS青森にとっても、高校生たちの取り組みは魅力的だった。
 放送時間帯などの詳細は未定だが、主に週末に放送する予定。地元ならではの番組を放送していく方針だ。市内の商店街関係者をゲストとして呼んで店の紹介 をしたり、市内で行われているイベントを中継したりすることを想定している。ミニFMは半径200メートル程度しか届かないが、中継局を置いて受信エリア を市内の商店街の7割程度まで拡大することも検討している。

◇地域SNSが軸
 久保田君たちに場所を提供したSCS青森の前身は、2007年10月から始まった「ユビキタス情報配信システム」の実証実験に伴って発足した団体だ。この実験は総務省が委託したもので、携帯電話を使って街の情報などを得られるシステムなどがテストされた。
 実験は08年2月までで終わった。しかし、「終わらせず、続けてほしい」などと関係者から声が上がり、ネットを使って地域の活性化を担うNPO法人とし て発足した。実証実験で得られたノウハウや人脈を継承。市民らが登録してネット上で互いの情報をやりとりできる地域会員制交流サイト(SNS)を軸に、グ ルメをはじめとする情報を一般に向けて発信するサイトや、前出のミニFM局も設置もできる拠点施設の運営などに手を広げている。
 SNSの登録者数は現在、4700人を超え、市民でなくても登録が可能。市内のラーメン店やカフェの口コミ情報などがやりとりされている。テーマに応じ て参加者が情報を交換する「コミュニティ」も63程度ある。ニコニコ通り商店街にある65店舗の大半が、SCS青森にかかわっているという。
 一般向けのサイトには、ニコニコ通りの商店だけでなく、市内のさまざまな店の情報が登録されている。SNSに寄せられた口コミ情報も反映される。また、街のイベントの情報も閲覧することができる。
 SCS青森はこうした情報の媒介も行うことで、地元の活性化を狙っている。専任スタッフの種市佳織さん(29)は「ニコニコ通りにとどまらず、市内の商業活性化につながっていると感じる」と話す。
 拠点施設は、観光などの案内のほか、地域づくりに興味がある住民の集会場所として提供。付近の商店主らを集めた無料のパソコン教室なども開いている。生徒の一人は「店のチラシを自前で作りたくて通っている。勉強になって、ありがたい」と語る。

◇自前の収益源確保が課題
 SCS青森の理事長は、地元商店街でラーメン店を営む工藤公さん(56)。工藤さんを5人の「コアメンバー」が支え、2人の専任スタッフを拠点施設に置いている。
 工藤さんは実証実験時代から中心的存在としてかかわってきたが、「(実証実験は)青森市から話があった。最初は本当に大変だった」と振り返る。最初に説 得に回った商店街関係者は年齢層が高く、パソコンはもちろん、携帯電話さえ触ったこともない人もいた。「わたしは関係ない」とすげなく言われることも。工 藤さんは「これからはパソコン、携帯の時代だから」と説き伏せ、半ば強引に引き入れた。
 実は工藤さん、前職は千葉県警の警察官。商店主の説得を重ね、店の情報をネット上に登録してもらうことで、実態を把握していった。パソコンの操作ができて、警察官時代に覚えた事務手続きに慣れていたのも役に立った。
 実証試験が終わって、存続を求める声が相次いだものの、経費の問題が立ちはだかった。市などに掛け合い、補助金をもらえるよう奔走した。今では、青森市 の中心商店街空き店舗対策の補助金で拠点施設の家賃の一部を賄い、ふるさと雇用再生特別基金事業の委託事業費で専任スタッフ2人を雇っている。こうした助 成金が、年間1200万円程度の収入の4割くらいを占める。
 残りの4割程度をネットを使ったアンケートといった県などからの受託事業収益、2割を3社程度の企業からの協賛金や寄付で賄っている。
 工藤さんはNPO法人として登記するため、発起人集めにも走り回った。登記に必要なのは10人以上。実証実験でつながりがあった人や、地元関係者から 募って、17人を確保した。待望のNPO法人設立に向け、関係者による総会が開かれたのは08年12月。09年3月に認可を受けた。
 工藤さんは「この種の実証試験は、期間を過ぎたら終わるのが普通。経費の問題があるからだ。『続くのは珍しい』と関係者から言われる」と語る。今後の課 題は、自前の収益源をいかに確保するかだ。工藤さんは「電動アシスト自転車の有料貸し出しや、イベント関連などで収益を出したい」と力を込める。さらに、 商店街のホームページを作って広告を出してもらったり、自前のネットサービスを広告媒体として使ったりすることも視野に入れている。

◇問われる説明責任
 今年4月、政府税制調査会が、NPO法人への優遇税制を拡充する方針を打ち出した。年末の税制改正論議で詳細を詰めるが、NPO関係者は注目している。SCS青森のコアメンバーの一人である会社員の葛西純さん(47)も「少なからず影響があるはずだ」と語る。
 葛西さんは「寄付を集めるために、具体的な活動が外部に見えるようにすることが重要になる。資金をもらう以上、説明責任も問われる」と強調する。具体的には、「『何のNPOか』という問いに、そのNPO自らがスタンスや具体的な活動を語れることが必要だ」と語る。
 地元の青森中央学院大学経営法学部の大野和巳教授(46)は「これからSCS青森の活動が街にどういう影響を与えるか、注目している」と話す。
 大野教授は「インターネットという仮想の世界と現実世界との連動は、さまざまなビジネスモデルをもたらす」と指摘。その上で、「SCS青森もネットと現実世界の両方の顔を持つだけに、地域活性化という分野でどういう展開を見せるか、興味深い」と話す。
 ただ、厳しさを増す自治体の財政状況の中、助成金依存の割合を下げることは急務。持続可能な収支構造をどのように築き、商店街関係者や市民を活動の中にどれだけ多く取り込んでいけるのか。SCS青森の真価は、これから問われることになる。(了)
(2010年5月31日/官庁速報)

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